クラシック座談会

東京ニューシティ管弦楽団 音楽監督 内藤 彰
公認会計士・医療経営コンサルタント 石井 友ニ
(石井 友二 プロフィール)
 
音楽は、医療現場における治療法の一環として、うつ病など精神的に不安定な状態の患者の治療や、身体的障害、老化現象にもとづく障害を持つ方たちを治療するために用いられるようになっていました。
「音楽療法」という言葉が聞かれるようになり、ほんの少しの癒しが病状の改善に大きく関わることがあると言われています。
今回は、プロ・オーケストラの指揮者である 音楽監督 内藤 彰が、医療経営の現場でコンサルティングを行う公認会計士 石井友二 氏を迎え、医療コンサルとしての立場から音楽の持つ魅力について語っていただきました。

真摯に向かい合う姿勢が大事

内藤 今回は、医療経営のコンサルティング会社である、ホワイトボックス株式会社の石井友二先生にお越しいただいて、お話をお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。まずは、石井友二先生が経営する、ホワイトボックスについてご紹介いただいてよろしいでしょうか。
石井 はい。ホワイトボックスは、600床を超える大病院から小病院、診療所、施設、高齢者専用賃貸住宅等をクライアントとする医療経営コンサルティングの会社です。
医療介護福祉事業への経営コンサルティングを通じて、国民が健康で豊かな生活を送ることができるよう支援していくことを、自社の経営理念とし、またミッションとしています。
内藤 ありがとうございます。医療コンサルティングを行っていると、音楽の大切さというものを実感するときがあるとお伺いしたことがあるのですが。
石井 はい。音楽は癒されるし、勇気付けられる。多くのストレスや軋轢から開放される。心が美しくなると思います。そして、生で音楽に触れることにより音楽をつくる人々との関係ができるところが素晴らしいと思うのです。
内藤 最近、色んなCDが沢山発売されて、胎教に良かったりとか、リラクゼーション効果があったりとか、どういう曲が選ばれるのかわかりませんが、医療と音楽について注目されだしているようですね。
石井 ええ、病の治療用に音楽を利用することで、リズムに合わせて身体を動かしたり、楽器を演奏したり、あるいは音楽を聞くことで感覚刺激を与えて様々な病気を治療したり、たとえば、身体的障害におけるリハビリテーションなどの場面でよく用いられているようです。
現代人は、人間関係や仕事など様々なストレスから、十二指腸潰瘍や胃潰瘍などの身体的な影響が出たり、神経症や心身症、うつ病などの心理的な疾病が非常に増えてきてます。
音楽は、こういったストレスを軽減し、心理的な病気の予防効果があると言われているんです。
内藤 私は、棒振りとして、医療用だからとか、特別何かに媚びているわけではないのでよくわからないのですが、感覚的になんとなくわかる気もします。
石井 内藤先生が意識する必要は全く無いと思うんです。先生は原理原則に基づいて、正しい音をキチッと伝えていけばいいと思うのです。
だからその、真摯に向かい合うっていうのは医療用ではないですが、その先生の姿勢が大事なんですよ。そうすれば伝わるじゃないですか。でも、内藤先生は聞く人を意識したりはしないのですか?
内藤 と、いいますと?
石井 たとえば、同じ曲で、その聞かせる人によって何か変える、気持ちを変えるということがあるかということなのですが、もうまったく聴衆を意識しないで、常に淡々と譜面に向かって曲に向かい、プロとしてやっていくのか、あるいは今日の場面を考えながら、あるいは聞く人たちによって変えるのかということです。色々な場面で、先生のメンタリティも変わると思うのですが、人間がやるのに機械のように同じ曲をやるわけじゃないので、指揮するときも多少はリズムが変わったり、体調によって変わったりすると思うのです。
内藤 難しい質問ですね。選曲を行う場合、対象によって曲を選ぶことはあるのですが、音は同じではあるけど、もし同じ会場で、聴衆が違う、それによってテンポ感が少し変わったりとか、そういうことはあるでしょうね。でも、変わると言ったって、10のうち1も変わらないかもしれない。けど、じゃあ全然変わらないのかっていえ多少は変わっているのだろうと思います。いずれにしても、相手が誰であっても正しい音をキチッと伝えようとしていることには変わりありません。

音楽の持つ魅力

内藤 石井先生は、音楽と医療との関わりの中で、音楽の魅力について持つ奥深く感じていらっしゃるように見受けられるのですが。
石井 音楽って、まったく知識がなく、背景をもたず音楽を聞くことも、とても素敵なことだし、演奏を聴くだけで、なぜか感動するというのも不思議です。無意識に心に沁みこむ旋律の心地よさとか厳しさや優しさといったものに透明な心で触れて、音楽によって感動する中で、自分を見つめなおせるっていうところに魅力を感じるんです。
内藤 もう少し詳しく聞かせていただけますか?
石井 音楽と医療については、たぶん聞いてる人たちのエピソードとかから、何らかのロジックを発見してそれを商売にしてる人がいるんですよね。ただ癒されるのは間違いないですよ。音楽の持つ力っていうのは私達が感じている以上のものがあるのかも知れませんね。私は、音楽を聴くことによって、透明になるって思うんです。自分を反芻する。音楽は媒介なんですよね、あくまでも。音楽によって感動する中で、自分を見つめなおせるっていうか。たとえばベートーベンの「田園」。嵐が去った後の田園の風景って言われちゃうと、そういうふうに聞きますよね。でも、まったくわかんない曲を聴いたときってのはそういう想像ってできないじゃないですか。だからどちらかというと自分の持っている考え方や思いっていうものが音によって引き出されてくる。対象から得るものではなくて、自分が音楽によって引き出されるっていう感覚があるんですね。
内藤 それはもう演奏するほうだって同じで、作曲が何を考えて何のつもりでこの旋律を書いてるのかっていうことを知ってやる場合と知らない場合でまるで変わる。
石井 やっぱそうだ!やっぱそうなんですよ。知ってる曲は音を聞いちゃうから、自分を感じられなくなっちゃうんですよね。感動というよりもストーリーを追っちゃうというかその作曲家の気持ちになったりするわけですよ、やっぱり。
内藤 でも作曲家がそういうつもりで書いてるっていうのにそれを無視してちがうストーリーを勝手に作ってしまったらそれはちょっとまずいだろうと…
石井 知らない曲のときは自分で解釈しようとするんじゃないですか?
内藤 どれがいいかというのは、どこにも書かれていない。いろんな解釈が可能だけど、作曲家がある程度の意図をもって書いているときには、それと無関係な解釈をしたら誤りというべき。
石井 だけど、聞く側にはいろいろな人がいる。知識や経験や、あるいは今やっていることや、音楽に対する造詣とかも含めてすべてちがうわけじゃないですか。
内藤 うんうん。
石井 受け取り方はもう千差万別ですよね。受け取るときに音だけ聞いて感動するっていう人もいるかもしれないし、だけど音だけ聞いて感動するっていうのも微妙なんですよね。音楽を聴いて感動するっていうよりも、その音楽を聴いて何かを想起させたり、あるいは自分を振り返ったりする中で、その中で一体となって感動するっていうのがあると思うんですよ。その音だけの影響で感涙するっていうのは非常に難しいですよね。だからその指揮者の姿を見てとか、こんなに一生懸命指揮をしているという姿を見てとか、どんな過去をもって生きてきたんだろうとかいうことで感動する人もいます。
内藤 ありがとうございます。今日は大変有意義な時間を持てました。最後に何かありましたら一言お願いいたします。
石井 生での演奏を聞く中で、その空間に身を委ね、心を任せ、透明になることをとても楽しみにしています。東京ニューシティ管弦楽団は、団員の魂を揺り動かし、音楽をつくり、楽曲を演奏し、空間をつくりだしているからこそ、頑張っていただきたいと思っています。
音楽に包まれて自分自身や当社も成長できればとても幸せだな、とワクワクしています。
    (取材:理建工業株式会社 文化部)

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